「見える化」できたロス 対策費用は「投資」か?
このビジネスコラム、ながらくサボっていたのですが、これからは真面目に書いていこうと思います。ここでは省エネに関していえば手法のことを書くのではなく、ビジネス感覚つまり、経営(者)の視点あるいは消費(者)選択の視点から、エネルギーのモノゴトを合理的に読み解き行動していくこをと論じてみたいと思います。
省エネの講師で必ずお話しするのが、「ムダ・ロス」を「見える化」することです。エネルギーは何もしないと見えない物なので、とにかく「見える化」しないと改善が始まらないからです。
さて、「ムダ・ロス」を見つけた後の話です。知らずに垂れ流していた待機電力のようなものなら、作業で気を付ければよいこともありますし、あるいは簡単な自動化、連動化も有効です。しかし、どうしても更新の設備投資をするとか補修費をかけるといった対策が必要なこともあります。
さて、もしみなさんの工場の生産設備で、今まで熱が逃げるという認識がなく、断熱用の保温の劣化が激しいことに気付いたとします。それに伴うロスが仮に年間100万円にも上っていると「見える化」できたとしましょう。対策は劣化した保温を修復するしかありませんが、費用が400万円だったとします。みなさんはどう判断しますか。
よく「当社は投資回収3年以内が基準だから、この投資はきびしいなあ」などという意見があります。
これは2つの意味で間違いがあります。
念のため申し添えますが、決して「環境意識が低い」とか「地球の将来ため」といっているのではなく、「その判断は御社の経営を苦しめる」と言う意味の間違いです。
1つめ。費用の比較が間違っています。劣化補修をずっとやっていなくてつもりに積ったロスと補修費用です。本来、毎年予算を組み、着実に実施するべきものです。私の経験でいうと、例えばですが、この事例は年間補修費用40万円で効果は年額10万円のロス防止です。そしてこのロス防止は10~20年は有効です。ただ、次々あちこち劣化の場所が見つかるので(見つけるべきものなので)、この補修費用は毎年確保しておくべきものです。そしてこれは確実にロスを抑制するので儲かります。(メリットなかったら、誰も断熱保温なんかしやしません。)補修費用は投資ではないのです。
2つめ。投資回収〇年という比較が間違っています。一般に投資回収期間を設けるのは、投資の効果の不確実性つまり効果が何年永続するか分からない(例えば、新製品が何年売れるか分からない)こと、金利なども踏まえると将来の価値は割り引いて考えることなどによるものです。
さて、この保温の劣化とそれによるロス、将来の不確実性はどのらくらいでしょうか?保温の劣化がある日突然何もしないで治る、ということはありません。もし無くなるとすると、それはその設備が無くなった時です。つまり、設備を使わなくなる、または更新する場合だけです。ですから、まだまだ使う設備なら、こうしたお金はきちんとかけるべきです。よっぽど他で使いたいことがあるなら別ですが、単にお金を出すのを渋っているとすると、私には、100万円の金利で400万円のお金を借り続けているように見えます。
(あるいはあなたが将来のエネルギーコストをとても楽観視しているなら別ですが。)
経営者やマネージャー層は、このようにロスの発生理由を知り、正しく経営資源(ヒト、モノ、カネ)を投入していく必要があります。それを知ることは、なぜなぜ分析の様に、よく考える必要があります。
いずれにせよもっとも問題なのは、このロスそのものが認識できていないことです。知らぬが仏、といった状況でしょうか。それを「見える化」することがもっとも重要なはじめの一歩であることにかわりはありません。