新東名高速道路 速度アップのエネルギー的影響

やや古い話になるが、2017年から新東名高速道路の新静岡I.C.~森掛川I.C.間で、普通車の制限速度が100km/hから110km/hに試験的に引き上げられた。私も仕事でよくこの区間は通る。そしてこの話を聞いたときに思ったのは「燃費が悪くなるな。ガソリン消費量が増えるな」

自動車が高速走行する場合に、クルマは空気をかき分けて走っているのであって、空気抵抗の影響は大きい。従って速度を上げれば上げるほど、燃費は悪化する。以前、オートクルーズ付きのクルマに乗っていたころ、中央道調布付近の平坦な箇所でテストしたことがあって、80km/h 90km/h 100km/hと10km/h上げ下げることに燃費は10%くらい変化したので、自動車道では速度10km/hアップで燃費は10%悪化、と思っている。

そこで、この数値を使って試算してみることにした。
この新静岡I.C.~森掛川I.C.間は距離で49.4km、この区間の普通車の通行量は26,000台/日とした。(NEXCO中日本資料 静岡県内普通車休日38千台/日、22千台/日より、また、静岡県内東中西部概ね同じのようである。)また、燃費の設定は15km/Lとした。そうすると、この区間を通過する際の普通車の年間使用ガソリン量は、23,440kLとなる。
燃費が10%悪化するということは、ガソリンが10%多くかかるという事なので、増加分は年間2,344kLということになる。

計算式)
年間増加ガソリン量(L)=区間距離(km)÷燃費(km/L)×台数(台/日)×365(日)×10%
=49.4(km)÷15(km/L)×26,000(台/日)×365(日)×10%
=2.344.000(L)

この増加分をどう見るか。CO2排出量で計算すると、5,443t-CO2となる。我が国の年間排出量の0.0005%位に相当する。なんだそんな小さな割合か、目くじら立てるな、といわれそうである。ただ、見方によっては違ってくる。
ガソリンの価格を130円/Lとすると、増加分は3億円である。個人レベルでは、うっとくる金額ではある。

省エネルギーという観点でみるとどうなるか。
我が国では省エネ法で、エネルギー指定管理工場という制度がある。一定以上の年間使用量を超えると、国に毎年1%の継続的な削減を行う計画を立て報告し、使用量の実績を報告することを求められる。達成できないとそれなりに理由の説明も求められる。(なお、生産量が変わるとエネルギー使用量も変わるが、「原単位」という生産効率も様なもので評価する。)
指定管理工場は一定の使用量から第二種、さらに多いと第一種となるが、その境が原油換算という数値で年間3,000kLであるのでこれを元に試算してみた。(なお、年間使用量原油換算3,000kLというと光熱費でいうと1億円はくだらないそうそうたる工場である)

そうすると、上記燃費悪化増加分は、エネルギー指定管理工場の努力(1%)分の換算で700事業所分となった。つまり、大きな工場700工場の努力分がすっとぶ計算だ。全体の割合では小さく見えても、人の努力が水の泡になった分で計算すると馬鹿にならないように思える。

ところで、この話にはオチがある。
制限速度が緩和されると全ての普通車が速度を上げるので、そのぶん燃費が悪化するという前提で計算をした。ところがそうではないのである。私もこの区間を走って思ったが、早いクルマはもともと(制限速度にお構いなく)早いし、遅いクルマは遅いのであり、全体としてあまり違いは感じなかった。

この試験的引き上げの評価として、事故率に変化はないし、クルマの速度にも特に変化はなかったようなのである。試験を始める前に静岡県警が「取り締まりを強化する」とコメントしていたが、その影響?(本来、試験の目的に関しては外乱となるから。)

どうも手間だけかけて、不要な心配をさせて(私だけか)、実態には影響のない策だったようなのだ。エネルギーとは関係ないのだが、そもそも制限速度って何だ?と思う次第である。